阿佐谷英語塾難関大学受験 英語の勉強法英語の読み下げについて

英語の読み下げについて-鉄緑会の緑の森から引用


(2018.11.22 更新)

※「鉄緑会の英語の森」から引用しました。スラッシュ・リーディングとは異なる「読み下げ論・訳し下げ論」ですが,筆者はこれを日本語の助詞論として展開しているので,一部省略しました。また適宜,行間を詰めさせてもらいました。

(前略)
次の文を和訳してみてください。
He made promises which he broke.
これは普通に学校で文法を学んだだけではなかなか訳せない難しい英文で,ポイントとして以下の2つの内容を含んでいます。
1.関係詞の限定(制限)用法も,訳し上げる(後ろから訳す)とは限らない。
2.和訳では時間軸を反転させない。

ふつう関係詞を学ぶときには,
「限定(制限)用法(関係詞の前にカンマがない場合)は訳し上げる,継続(非制限)用法(関係詞の前にカンマがある場合)は訳し下げる」
というふうに理解することが多いのではないかと思います。
関係詞のこの用法の違いについてはまた別の回で詳しく述べたいと思いますが,いずれにしても,以上の訳し方はあくまで原則にすぎないのであって,どんな文でも「カンマなし→訳し上げる,カンマあり→訳し下げる」というわけではありません。例外はいくらでもあります。
また,和訳する際には,「過去のこと→未来のこと」というように,出来事の進行の順序に合わせた順番で訳していくべきで,1つの文中で時間軸が反転してしまう訳にするべきではありません。これは重要な考え方です。

たとえば,日本語では「Aして,それからBする」というように時間軸に沿って表現するのが普通であり,「Aして,その前にBする」というように,文の途中から突然時間をさかのぼるような文は不自然なのです。

以上の2つのポイントをふまえると,さきほどの英文は
「彼は約束して(それを)破った」
と訳すのが正しいことになります。

関係詞節を展開して He made promises and (he) broke them. というように考えたものだと理解すればわかりやすいでしょうか。結果として限定(制限)用法でも訳し下げており,時間軸に沿った訳文になっています。

中高生にさっきの英文を訳してもらうと,
「彼は破った約束をした」
とか
「彼は破る約束をした」
とかいう訳文が続出するのですが,どちらも誤りです。

「彼は破った約束をした」という文であれば,「彼は前に約束を一度破ったんだけど,こんどは破らないよと再度約束した」という意味に解釈するのが普通でしょう。それなら,英文は
He made the promises which he had broken. となるべきです(promises に限定詞が必要だし、broke は過去完了にすべきです)。つまり,「彼は破った約束をした」という訳文はもとの英文と意味が違ってしまっているので,完全に誤訳です。i

また,「彼は破る約束をした」という文であれば,「彼はどうせ破るつもりで(守るつもりのない)約束をした」という意味になるでしょう。であれば,英文は
he broke ではなく he would break などとなるはずです。やはり誤訳ですね。

以上のように考えると,He made promises which he broke. という英文は,関係詞を訳し上げるのは不可能で,「彼は約束して(それを)破った」というように,やはり関係詞を訳し下げるしかないことがわかります。

前回は「He made promises which he broke. という英文は,関係詞の限定(制限)用法でも時間軸に沿って訳し下げ,『彼は約束して(それを)破った』と訳すのが正しい」というところまででした。

今回はこの続きで,この英文が日本語の助詞の話とどうつながるのかという核心に迫ります。

今回とりあげている文を再度眺めてみましょう。
He made promises which he broke.
:彼は約束をして(それを)破った。
何か違和感がありませんか?
この和訳でも厳密に100%間違いだというわけではありませんが,実はなお改善すべき点が残されています。

「彼は約束をして(それを)破った。」という文を読めば,たとえば「彼は僕に女の子を紹介してくれるって約束したくせに,その約束を守らなかったよ,ちくしょう」というような状況が思い浮かびます。
いや,約束した内容は何でもよいのですが,肝心なのは,普通は「1回約束してそれを破った」というように読めてしまうのではないか,ということです。つまり,「1つの約束をしてそれを破った」ということです。

しかし,もとの英文を眺めてみると... promises と複数になっていますね。
この「複数である」ということを表現できる訳文をどうにかして作れないでしょうか。

もちろん,極端に言えば「彼は複数の約束をして,それを破った」と訳すこともできますが,普通の日本語でいきなり「複数の」などと言われてもびっくりしますね。不自然であるのは否めません。とはいえ,「彼は何回も約束をして,それを破った」というように訳すのもちょっと怖い気がします。この訳文でも正しいのですが,英文に many promises や many times といった表現がないのに「何回も」と訳すのは訳しすぎな気もします。

では正解は?
△「彼は約束をして破った。」

○「彼は約束をしては破った。」
これが模範解答です。

どうですか?「は」という助詞わずか1文字が入っただけで,「複数回約束して複数回破った」という反復のニュアンスを表現することができており,見事に promises という複数形を訳出できているのではないでしょうか。


※今回は取り上げた例が悪かったようです。筆者は関係詞の限定用法と非限定用法自体がよくお分りになっていないようです。そもそも He made promises which he broke. という例文はどこから取ってきたのでしょうか。ネイティヴの英語が常に正しいわけではありませんが,前後の文脈はどうなっているのでしょうか。なぜ He broke the promises which he had made. ではいけないのでしょうか。それとも筆者が頭の中で考えた架空の例文なのでしょうか。
なお,下線は引用者が引いたものです。

筆者は,引用者が二つ目の下線を引いたように,He made promises which he broke. という文を限定用法であるとして,それを時間軸に沿って
He made promises and (he) broke them. と訳し下げるとしていますが,これだと
He made promises, which he broke. のカンマが脱落しただけで,非限定用法そのものです。(=He made promises,and [but] he broke them.)
限定用法なら,普通は He made the promises which he had broken. となるところです。そのことは筆者も三つ目の下線部で指摘しています。
訳文は「彼は以前破った約束をまたした」くらい補えば十分に通じます。

ただし,私自身はあまり好ましいこととは思いませんが,than [as] 以下や関係詞節等で,大過去の代わりに過去を用いるのはそう珍しいことではなく,またこの例文では何のマーカーもないので紛らわしいのですが,現在時制と同様に,過去時制で過去の習慣的・反復的行為を表すことがあり,筆者の模範解答「彼は約束をしては破った」を見ると,ご本人が意識されているかどうかとは別に,この解釈に立っていることになります。
その場合であっても,なぜ He broke the promises which he made. という英語ではいけないのか。やはり純粋に頭の体操がしたかったということでしょうか。

あまり揚げ足取り的なことは言いたくありませんが,筆者は made promises を「複数回約束をした」という意味に取り,日本語の助詞論に繋げていますが,文脈によっては,「一度に複数の約束をした」ということもあり得るのです。だから文脈が重要なのです。なお「複数の約束/諸々の約束/いくつかの約束」という日本語がやや生硬なのは事実ですが,そのために入試の英文和訳の解答として減点されることはまずないでしょう。

また筆者の主張の二本の柱のうちの一本である「2.和訳は時間軸を反転させない」が一つめの下線部で敷衍されていますが,「Aして,そしてその前にBする」という日本語がそれほど不自然でないこともあります。たとえば,「彼はいつも寝る前に晩酌をして,そしてその前に一風呂浴びる」くらいは許容範囲内でしょう。日本語の表現の融通無碍・柔軟性は相当なものですから。ただし,これは英語に関わる問題ではなく,純粋に日本語の問題です。

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