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なぜ難関大学を目指すのか


(2019.11.17 更新)

なぜ難関大学を目指すのかという問題に関しては,多くのサイト,特にQ&Aサイトなどで取り上げられ,様々な考えが述べられています。どのような意見であれ,質問者の疑問や不安に答えることができていれば,それで良いと思います,ただし,あまり奇麗事に過ぎる答えは単なる建前であり,質問者をミスリードするおそれがあります。やはり厳しい現実を直視するべきでしょう。今日の雇用問題が大学の選択や進学に大きな影を落としていることは否定のしようがありません。大学は就職予備校と化し,教養課程を終了した段階で就職活動に入るのが当然のことと見なされています。今の日本を支配しているのは財界・大企業であり,政治はそのお先棒を担いでいるにすぎません。原発問題の推移を見れば一目瞭然です。これを書いた2011年当時は民主党政権下であり,自民党政権を批判をしていたわけではありません。その後,安倍政権の経済政策のおかげで就職難は解消されたと言われていますが,これはブラック企業や非正規雇用を含めた話であり,大手有名企業の求人が買い手市場であることに変わりはありません。

企業(会社)は何のために存在するのか,という問に対しては,ある時期までは,大多数の国民の間に一応の合意が存在していました。「企業は従業員(社員)と地域社会のためにある」という考えです。本音でそう考えている経営者も多く,本音はともかく,建前としてこれを公然と否定する経営者は存在しませんでした。しかしある時期から,建前としても「企業は経営者と株主のためにある」という価値観の転倒が生じました。何がその契機になったのかはおわかりでしょう。いわゆる構造改革です。人によっては市場原理主義とも言います。企業が主人公であり,国家は企業の便宜を図るための行政組織・権力機構にすぎなくなり,共同体としての社会とは異なるものになります。企業にとって,人件費は最大のコスト削減の対象であり,低賃金・重労働,サービス残業,非正規雇用等が常態化しました。古典的なマルクス経済学の立場からすると,資本家による労働者の搾取ということになります。職場が従業員にとって自己実現の場であるかどうかなどということは,企業にとってはどうでもよいことです。そう思わせておいたほうが利益が上がる場合にはそうするだけです。

こうした風土においては,長期的な見通しに立った多様な人材の確保・育成などという視点はごく一部の企業にしか存在せず,即戦力,使い捨てが普通のこととなります。企業自体が先の見通しが立たない以上,当然といえば当然です。基本的には何十年も前から変わっていないことですが,過去の経験則に照らした無難な求人方針がさらに顕著になります。つまり大学の名前で篩(ふるい)にかけることです。受験偏差値がそのまま就職偏差値になるわけです。確かに,与えられた仕事を無難にこなせる人材を確保しやすいのは事実でしょう。

ただし,上に述べたことはあくまでも一般論にすぎません。日本にはまだまだまともな経営者が存在するし,そもそも普通の就職を考えていない人には関係のないことです。しかしごく普通の生き方をしようと思っている人にとっては,卒業大学は大きな保険になります。だから名前の通った難関大学ほど保険としての価値が高く,その頂点に位置するのが,明治以来の国策大学とも言える東京大学だということになるのです。本題は難関大学受験英語の勉強法ですから,これ以上の深入りはせず,あと少しだけ補足して,このテーマは切り上げます。

大学進学率は,高度成長期の60年代でも10%台であったものが,現在は60%近くに達しています。進学率は上昇しましたが,大学・学部の増設と定員増,そして言うまでもなく少子化が原因で,大学は完全に広き門となり,大学受験生の学力差,大学間の学力差は大きく開きました。難関大学はさらに難化する一方,定員割れの大学も少なくありません。学力差は小学生の時点からすでに存在し,中学・高校でさらに拡大していきます。こうした学力差はもはや埋め難いものかといえば,Yes でもあり No でもあります。いったん開いた学力差が必ずしも固定的なものでないことは,中高一貫の進学校の生徒の中学入学時と高校卒業時の学力が一部の生徒を除くと一致しないこと,最難関私大付属の中学や高校に合格した,中・高受験の時点では学力トップ層が大学入学後は留年候補生となる例が少なくないことを見ればわかります。

ということはこの逆の現象もあり得るということです。環境と刺激,そして何よりも本人の動機付けがあれば,逆転は可能です。この場合,最初と最後に物を言うのは本人の性格ですが,これは勉強に限らずあらゆることに当てはまることですから,外的要因としてはいかに動機付けを与えていくかがきわめて重要になります。分からなかったことが分かるようになる,自力では解けなかった問題が解けるようになる,これだけで,やる気は大きく変わるものです。良き教師との出会いがいかに重要かということです。自塾の宣伝をしているわけではありません,念のため。なお,難関大学の頂点としての東大人気の著しい高まりと,それとは裏腹な東大受験生・東大生の学力低下については別のところで論じます。

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