阿佐谷英語塾塾長のメッセージ

慶応法学部の小論文対策


(2.10.2011)

1 問題文(設問文)をきちんと読み,指定に応じて課題文を読み取り,解答を書くこと。課題文の全体の要約を求められているのか,文章中の特定の主題について要約を求められているのかを取り違えないこと。設問から外れた解答では得点はできない。

2 内容の正確な読み取りが出来るかどうかが全てである。それが出来なければ問題が自分の知識・教養・常識の範囲外にあり,要約で高得点を狙うことは無理だと割り切り,自分なりの一応の要約をしっかりした日本語で書いておく。

3 自分の意見を述べるタイプの設問の場合,課題文の全体ではなくそこで述べられている或る主題が焦点であれば,そのテーマが自分の守備範囲に納まっている場合には,一定の得点が可能である。

4 課題文を要約するときも,自分の考えを述べるときも,問題文に与えられている(括弧つきの)キーワードがポイントであることを忘れないこと。したがって,課題文中のキーワードが出てきた箇所は特に注意して読む。幹の部分と枝葉の部分 を混同しない。

5 2010年度のように要約という指定がなくても,要約と自己の考えに分けたほうが書きやすい。ただし,設問文の指示に従うことが前提である。なおこの年度は難しすぎて,まともに答えられた人はごく一部にすぎない,と考えてよい。

6 今年度のテーマも設問の形式もまったく予測はつかないが,他の科目でかなり得点できる手応えがあれば,上記の点に注意しつつ,無難な解答で済ませてよい。ボーダーラインにあると感じたときは,まず構成を固め,しっかりした文章で,ある程度独創的な意見を述べる必要はあるが,過度の背伸びは禁物である。

7 小論文の過去問や他科目で得た知識は自由に引用してよい。ただし,事前に用意したネタを自分の考えの一部として使える構成力と文章力が必要である。論理的に一貫した根拠を挙げれば,自分の考えは自由に述べてよい。イラク戦争を米国の侵略と表現するくらいは許容されるが,大学の採点官・研究者の共感を得られない極端な意見は避けたほうがよい。

以下,課題文の内容によって異なるが,2011年 2月現在,必要な背景的な視点を挙げておく。しかし,テーマが完全に自分の守備範囲を越えていれば,単なる作文で済ませることもやむをえない。

与えられた課題に即して,最新の時事問題を絡めて論じることができれば,受験の最中,最新のニュースまで追っている姿勢は正当に評価されるはずである。現在 (2011年2月),最も注目されている時事問題である中東,特にエジプトの独裁者打倒の民衆革命に関連して,マスコミ等ではもっぱら情報革命といった視点で取り上げられている----国際政治を専門とするT大Y教授は,新聞紙上で「私たちは今,情報革命を目撃しつつある」と発言している----ので,違う視点を提示しておく。

1. インターネットのソーシャル・ネットワークを通じた若者の呼びかけが変革のきっかけとなったことから,情報革命,ネット革命といった捉え方が新聞等既存のメディアによってなされているが,インターネットは即時性の高い現在先端に位置するメディアであるにすぎない。いつの時代にも社会の変革をもたらす,その時代のメディア,ネットワークが存在し,民衆を動かしてきた。インターネットの過大な評価は,個々の変革の真の理由を見誤ることになる。古くは羅針盤,活版印刷,蒸気機関等,科学技術の発達が歴史の推進力であることは自明のことではないだろうか。かつて中国の「文化大革命」は独裁者の側が権力の維持を図って仕掛けた逆の「革命」であったが,造反有理を叫ぶ「紅衛兵」の波が瞬く間に中国全土に広まった当時,もちろんインターネットは存在しなかった。その後のベルリンの壁の崩壊と東欧革命の連鎖,ソ連の崩壊,またフィリィピンのマルコス独裁政権打倒の民衆革命も同様である。歴史を遡れば宗教改革の例もある。

2. 確かに独裁政治は,先進国から見ると西欧型民主主義に反する,認めがたいものであるが,途上国においては或る期間は有効な政治体制であることも否定できない。フセイン打倒後のイラクの混乱がいつ収まるかの見通しは立っていない。中国が公正で民主的な選挙に基づく議会政治を早急に取り入れたらどうなるか。中国は分裂・崩壊の危機に直面し,おそらく軍事クーデターが起こるだろう。金正日体制の北朝鮮もまた同様である。中東・北アフリカの独裁政治はとうに賞味期限を過ぎ,国民の大多数がすでに有効性を認めなくなっている点で異なる。

3. 独裁政治は常に軍部の掌握によって成り立ち,軍が離反すれば崩壊する。ときには別の軍事独裁政権が誕生するだけのこともある。エジプトの場合も変革の成否を決めるのは軍の動向である。独裁体制下の軍はある種のエリート権益集団であり,基本的には軍人出身の独裁者と利害を共有する。エジプトの場合には選抜徴兵制であり,元々,軍と国民との親和性は高いと言われるが,それでもムバラクを見捨てると決断するまでにはそれなりの時間を要したはずである。

4. 今後のエジプトで民主的な選挙に基づく政治が行われると,穏健派とはいえ反イスラエルを掲げるイスラム同胞団が与党の一角として勢力を伸ばしてくる可能性もある。中東の盟主と言われるエジプトが反米・反イスラエルの立場に立つと,中東をめぐる国際情勢は一気に緊迫する。そのときもエジプト軍の動向が鍵を握る。建前としては文民統制に従うことを求めざるをえないアメリカの立場は微妙である。

5. これまでイスラエルに対しては不法な侵略的行為にも目をつぶり,他国に対してとは明らかに異なる基準を使い分けてきたアメリカが,ユダヤ系アメリカ人の影響力を無視して方針転換を出来るのか。アメリカ自体が深刻な国論分裂の危機に晒される。先の読めない今後の国際情勢の帰趨を考えると,情報革命などという見方は表層的にすぎるだろう。世界唯一の超大国と言われたアメリカがイラク戦争を機に急速に影響力を弱めつつある。いわば国際世界の独裁者が力を失ったことで,国際政治は混迷を深めていくだろう。

6. アメリカ国内で文民統制が機能しなくなる可能性はさすがに高くはないと思われるが,上からの資本主義化を図る中国ではすでに共産党が軍を統制する思想的基盤を失い,軍を完全に掌握できていないとも言われる。日本においても,万が一国内分裂・有事の事態に陥ったとき,文民統制が十全に機能しない可能性はけっして低くはないだろう。政治家が国民の信を失うと,軍を統制できなくなり,かつての軍部暴走の二の舞いになりかねない。その意味で,現在の日本も危機的状況にあることに変わりはない。国内においては,実力部隊である軍に対する文民統制こそが民主主義の基本であることを忘れてはならない。国際的には外交努力が全てであり,武力行使も外交の一手段にすぎないのである。

7. エジプトは欧米先進国と異なり,若者の人口に占める比率の高いことが,若者主体の運動が力を得た一つの理由だと言われているが,反対に高齢化の著しい日本のような社会においてこそ,若者の知恵と勇気と行動力が重要ではないか。

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